僕の父は音楽にかんしては素人だったが、いま思えばなかなか先見の明があった。CD屋は隣町に一軒あるだけの片田舎で、どこで知ってどうやって手に入れたのかサリフ・ケイタのデビューアルバムを聴いていた。トレイシー・チャップマンやエンヤにいち早く注目したのも彼だったように思う。当時アメリカとイギリスの[白人]音楽にしか興味がなかった僕なんかよりはるかに広い視野で音楽に触れていた。日本でワールドミュージックブームが起ころうとしていた80年代の終わり頃だ。
父が最後に聴いた音楽はなんだったんだろう。たぶん僕が想像しているようなものじゃないはずだ。「やはりバッハは偉大だな」とか「ジャズはいろいろ聴いたけど、帰ってくるのはやっぱりチャーリー・パーカーだよね」とか、そういう型通りのことをやるタイプじゃなかった。きっと聞いたらずっこけるようなくだらないものだろう。そのほうがあの人らしいと思う。


<追記>
久しぶりにエンヤを聴こうと軽い気持ちで再生したら歌い出しの瞬間全身に戦慄が走った。
この曲はPVも非常に秀逸。全画面表示、ヘッドフォン着用をおすすめします。